誕生日

入ったのはステーキ専門の店で,旨いという噂は聞いていたので,前から一度行きたいとは思っていた処だ。店には半円形の6人掛けのカウンターが横に2つ並んでいて,どちらも円の外側に客が座り,テーブルの内側に鉄板が扇形に広がっていて,その向こうの中心にシェフが入って賄いをするというスタイルだ。
コースを頼むと,2人とも小食なので,いつもかなり食べ残してしまうし,特に順番に出される賄いのときは,前半でお腹がいっぱいになってしまい肝心の後半が受け付けないということになる。そこで,単品を注文することにした。嫁さんはフィレの100グラムを,ぼくはサーロインの150グラムにしたが,少し野菜が付くものの,値段はそれぞれなんと8000円,12000円だ。これだけあればあれも買えるこれも買えると品物が脳内を回転し始めたが,あえて邪念を遮断して,食べ方を説明する何とかというかなり本格的な賞を取ったシェフの話に相づちを打った。
目の前の皿には薬味の赤味噌,白味噌,洋わさび,岩塩,黒こしょうが並んでいる。シェフが一口サイズに切った肉一つひとつにそれらの薬味を付け,その上ににんにくチップを載せて提供してくれる。口の中まで運んでくれるのかと一瞬錯覚するほどのサービスぶりだ。どの薬味もいい物が選ばれているからだろうが,上品に個性を発揮して,肉の旨味をサポートしている。一口食べてはワインを喉に流し込むことを繰り返し,至極満足だった。
シェフがよそ見をしている間に,薬味を何も付けずに肉を食べてみた。最高級の牛肉とはこんなに旨いのかと感激した。奢ってもらった手前言いにくいが,シェフが工夫したものより間違いなくこれが一番旨かったように思う。
その後は,隣のカフェでコーヒーを飲みながら,料理やシェフの説明などを思い出しておもしろおかしく語り合った。幸せな一夜だった。
| 「亜空間」の現象の周辺の周辺 | 2011.12.06(Tue)12:55 | Comments0 | Trackbacks0 | 編集 | ▲