亜の扉

　今年の残暑もまだまだ厳しいらしい。我が家でもまだ，エアコンと扇風機を組み合わせたりして，安上がりで涼しく過ごせる工夫をそれなりにやっている。
　これは先日のことだが，トイレを出てその前からリビングルームのほうを見ると，扇風機が，『エクソシスト』で女の子がベッドで振り返ったように，妙な方向に首をねじ曲げた状態で置かれている。羽根の向かう先は台所なので，嫁さんが洗い物でもしていて暑さしのぎに風を送っているのだろうと思ったが，それにしても，限界を超えるほど首をひねった形で扇風機を使うとは考えられない。少し汗が引いた感じがした。
　しばらくその場でこの奇妙な光景に見入っていたが，現象の原因が読めたので，数歩近寄ってみると，扇風機は普段通りの姿を現し，涼しい顔で澄ましていた。
　これは，校舎の屋上に取り付けてある風速計が突然逆回転して見える現象と同じで，扇風機の囲いの網の手前と向こう側が隙間を通して逆転して見えた結果，首があらぬ方向を向いているように思われたのだった。立ち止まらないと見えない亜空間の典型的な現象の一つだが，意外と身近で見られたのには驚いた。ただ，こういった現象は同じ場所からもう一度見てもなかなか再現されないのはもったいない感じがする。