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騒音

 奈良公園は今が紅葉の見頃だが,日が暮れると観光客の姿は一斉に消える。そんな公園を散歩すると,鹿の甲高い鳴き声が時たま聞こえるほかは静寂が辺りを完璧に覆っている。
 公園を横切る車道を渡るときだけが例外で,自動車の音がけたたましい。10台ほどの車の通過を待っていると,最後尾がゴミ収集車で,それが通り過ぎるとたちまち静けさが戻ってきた。騒音との対比の所為かこの静寂感は不気味なほどで,ゴミ収集車が音もついでにさらって行ったように思えた。

| 「亜空間」の現象の周辺の周辺 | 2013.11.26(Tue)14:25 | Comments0 | Trackbacks0 | 編集 |

 ぼくは子供の頃から冷え性のようで,冬場の体育の時間には,運動場で指がかじかんで硬直し真っ白なることがよくあった。大人になっても身体は温まりにくく,この時期は外に出ると手は氷のように冷たくなる。だが,手袋ははめた感触がどうも馴染めず,着けたことがほとんどない。
 今は寒い季節だが,それでも結構長い散歩に毎日出かけている。一緒に歩く嫁さんは5分もしない内に全身がぽかぽかと温まるようだが,ぼくは何十分歩いても寒いままだ。運動の一環の散歩なので,手はポケットに入れずしっかり振って歩いているが,手首から先は一向に温まらない。腕を振るだけで指の運動をしていないから温まらないのだと思い,歩くテンポに合わせて手のひらをグー・パー・グー・パーと開け閉めしてみるが,こういう単純な行為は100歩も行かない内に疎かになってしまう。
 それではと思い付いたのが,左右の手に異なる動作を強いることだ。片方の手はグー・パーを繰り返し,同時に,もう一方は握った指を小指から1本ずつ順に開いて行き,開き切ると今度は親指から順に閉じる。このセットを10回ほど繰り返して,左右の動作を交代する。
 こういったアンバランスな行為は意識を活性化させるのか,脳が緊張している感じが伝わって来て,亜空間ぽくてちょっと面白い。

| 「亜空間」の現象の周辺の周辺 | 2013.01.19(Sat)17:55 | Comments0 | Trackbacks0 | 編集 |

座布団

 昨日で退職となり,永年の勤めからようやく解放された。
 写真は勤め先で30年ほどぼくのお尻を支えてくれた事務椅子に載せた座布団で,嫁さんがパッチワークでカバーを作ってくれたものだ。使い始めたころの記憶はほとんど無いが,今改めて見ると,パッチワークの布の断片が剥がれ落ち,色は全体に褪せたり汗が染み込んでいたりしていて,とても簡単には言い表せない姿になっている。
 この様相を風情のあるものと見るかどうかは見解の分かれるところだろうが,ぼくはパッチワークの布の断片が,剥がれ落ちたものも含めて,元の模様が構成していた様子をそこから読み取れる姿で残っていることにある種の感激を覚えた。
 色や質感は年月と共に朽ちていくが,模様によって構成された空間は永遠にその姿を留めているように思える。緑と黒の市松模様の正方形を短冊状の布が何重にも取り囲んでいる。この形が上下左右対称に配置された構造で,全体としてV字状の布の組み合わせが奥行き感のあるスパイラルになっていて,それが動的なイメージを与えている。市松模様の正方形を取り囲む形が4つの小宇宙を形成し,それら全体で亜空間を構成しているようにも見える。
 どうやらぼくは,座布団の宇宙が形成した亜空間の上に腰を下ろして永年暮らしてきたようだ。

| 「亜空間」の現象の周辺の周辺 | 2012.11.30(Fri)11:25 | Comments0 | Trackbacks0 | 編集 |

青痣

 子供の頃から数えると,ぶつかったりこけたりして青痣ができたことは優に百回は超えるだろう。その痣が最近特に増えている。
 狭心症の手術後,血栓を防止する薬を毎日飲んでいる。俗に言う血をさらさらにする薬だが,出血に対しては逆効果で,血がなかなか止まらなくなる。そのために,手術や抜歯などは簡単には行えない状況にある。身近なところでは,内出血が大げさなものになる。いつどこで打ったかも分からず痛みもない箇所に青痣が突然現れる。多分この薬を飲んでいなかったら気付かないような内出血だろうが,血が固まりにくいのでかなり広がった目立つ大きさの青痣になる。直径5センチくらいのものはザラにある。
 痣は,最初は全体が青色の中に血の色をした塊が点在しているが,日が経つと徐々に青一色になり,その内少し黒ずんだ黄色に変わる。色が青の内はこの痣が消えるのにまだしばらく時間が掛かることを諦めているが,黄色に変わると消滅する日が読めてくるので,見るのがある意味で楽しみになる。
 その日は突然やって来る。ふと見ると,昨日まで肌に張り付いていた黄色の楕円形が物の見事に消え去っている。痕跡を探してもその場所が分からないときがあるくらいだ。
 人は60兆個ほどの細胞でできていて,毎日300億個ほどが壊れ同じくらいの数の細胞が作られているらしい。いろんな数値が出回っているのでどれを信じて良いのか分からないが,細胞は,皮膚も脳もこれまで替わらないと思われていた心臓も,数十日で新しいものに置き換えられるようだ。昔の自分と今の自分とでは構成する細胞がすべて異なっていて,今もそれが進行しているわけだが,いつも自分であることに疑いはない。不思議な感じだが,変化し続ける過程そのものが生の営みということになるのだろう。
 目覚めるときれいに無くなっていた痣の跡を見て,生の神秘に魅了されると同時に,ふっと消えたその様子に亜空間的なものを感じた。

| 「亜空間」の現象の周辺の周辺 | 2012.11.21(Wed)19:30 | Comments0 | Trackbacks1 | 編集 |

反射光

 この頃は4時にもなると太陽はけっこう西に傾き,ベランダ方向から強い日差しが室内に入ってくる。
 ソファーに座って嫁さんが植木に水をやっているのを見ていた。如雨露で植木鉢に撒いた水がこぼれて,ベランダの床を濡らしている。そこに太陽の光が当たり,反射光がちょうどぼくの眼に入って眩く輝いている。
 すべての植木に水をやり終わった後,如雨露に残った水を植木の天辺から葉全体にかかるように蒔き始めた。葉から何十粒もの水滴がしたたり,それが濡れた床の上に落ちる。先ほどまで単調に日の光を反射させていたその場所は,水滴が落ちるたびに跳ねて,光を八方に投げかけ,華々しく輝く躍動感に満ちた舞台に変化した。
 この現象のクライマックスは10秒間くらいしかなく,自分で水を撒いて室内に戻って見るのはかなりしんどいので,撒き役を嫁さんと入れ替わっては何度も楽しんだのだった。

| 「亜空間」の現象の周辺の周辺 | 2012.11.02(Fri)19:21 | Comments0 | Trackbacks0 | 編集 |

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秋岡久太(くだ)

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